清水誠治法律登記事務所

【新常識の落とし穴】「残クレ」でアルファードを買う中産階級がハマる、想定外の”相続リスク”

日本の道路を走る新車、特に街中でよく見かけるピカピカのミニバンやSUV。 その多くが、実は「所有者=ドライバー」ではないことをご存知でしょうか?

かつて、日本人の美徳とされた「車は現金一括払い」という常識は、もはや過去の遺物となりつつあります。車両価格の高騰に伴い、今や「残価設定型ローン(通称:残クレ)」が市場のインフラとして完全に定着しました。

月々の支払いを抑え、ワンランク上の車に乗れる――。 一見、合理的で賢い選択に見えるこのシステム。しかし、その裏側には、「家計の負債構造」を根底から変えてしまう巨大なリスクが潜んでいます。

今回は、販売店では決して語られない「残クレの出口戦略」、特に「契約者が死亡した時の相続リスク」について解説します。

 

「借金して車を買う」が当たり前になった日本

2023年末に発表された調査データ(ジョイカルジャパン調べ)は、日本人の意識変化を如実に物語っています。2012年から2021年にかけて、新車の購入方法は「現金」から「ローン・リース」へと劇的にシフトしました。

背景にあるのは、新車価格の高騰です。軽自動車でも200万円、ミニバンなら500万円超えが当たり前の時代。「現金一括」にこだわれば、いつまで経っても新車には手が届きません。そこで登場した救世主が「残クレ」でした。

しかし、私たちは「月々の支払額の安さ」に目を奪われるあまり、「借金の質」が変わったことを見落としています。

 

住宅ローンとは違う!「団信なし」の恐怖

残クレ最大のリスク、それは「所有と負債のねじれ」と「セーフティネットの欠如」です。

多くの人が「大きなローン」として思い浮かべるのは住宅ローンでしょう。しかし、住宅ローンには通常、「団体信用生命保険(団信)」が付帯しています。万が一、契約者が亡くなれば、保険金でローンは完済され、家族には「借金のない家」が残ります。

ところが、自動車ローン(残クレ)には、原則として団信はありません。

もし、残クレで500万円の高級車に乗っていた世帯主が急逝したらどうなるか? 車は家族のものにはなりません。「数百万の借金(残債)」と「所有権のない車」だけが遺族に残されるのです。

 

遺族を襲う「ブラックボックス査定」の罠

悲しみの中にある遺族には、過酷な3つの選択肢が突きつけられます。

  1. 一括返済して乗り続ける: 数百万円の現金を即座に用意し、車を買い取る。

  2. 相続放棄する: 車だけでなく、故人の預貯金や不動産など、全てのプラスの財産も放棄する。

  3. 車を返却して清算する: これが最も一般的ですが、ここが一番のトラブル源です。

「車を返せばチャラになる」と思っていませんか? それは大間違いです。 車を返却する際、ディーラーによる厳格な査定が行われます。

  • 「走行距離が規定を超えていますね」

  • 「バンパーに小傷があります」

  • 「車内の臭いが気になります」

これらは全て減点対象です。特に、故人が入院などで長期間メンテナンスできなかった場合などは要注意です。 査定の結果、「残価(あらかじめ据え置いた価格)」を車両価値が下回れば、その差額(数十万〜数百万円)を遺族が現金で支払わなければなりません。

これを、利害関係者であるディーラー側が査定する――。まさに「ブラックボックス」の中で、遺族は反論する術もなく、請求書を受け取ることになるのです。

 

出口戦略」なき契約はただの博打

「残クレ」はライフスタイルに合わせて車を乗り換える合理的なシステムです。

しかし、「住宅ローン並みの負債を抱えるのに、死亡時の備え(保険など)がセットになっていない」という現状の構造は、あまりに無防備です。

これから新車を購入する方、あるいは既に残クレを利用している方は、以下のことを確認してください。

  • 今の自動車保険(任意保険)に、ローン残債をカバーする特約はあるか?

  • 万が一の時、家族は「車を返す」のか「買い取る」のか、意思疎通はできているか?

車は単なる「移動手段」ですが、残クレを利用した瞬間から、それは「金融商品」の側面を持ちます。 「月々いくらか」だけでなく、「どう終わらせるか(出口戦略)」のリテラシーを持つこと。それが、ハンドルを握る者の新たな責任と言えるでしょう。

 

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